遠き道を行くがごとし


-タッタッタッタッ-

「あれっ!じっぺいくん、どちらへ!?」

「あっ、ツネタミさん!

おりぇ!山を降りようと思うんです!」

「そうですか…残念です…!

…ここで学んだことは、何か役に立ちそうですか?」

「はいっ、とっても!

おりぇ、ここで学んだ沢山のことを活かして、

’こっち’の世界を見て回ろうと思います!」

「そうですか、遊学ですか!

…私も一緒に行きたいのですが、

ついに学坊全体での‘大会議’が始まったので、

しばらく身動きが取れません…!

…残念です」

「だっ、‘大会議’??」

-タッタッタッ-

「…じ、じっぺいくん。

もし良かったらそこに座りませんか?」

「…あっ!しまった!止まるの忘れてた!

…では、お言葉に甘えて…♪」

-タッタッタッ-

-タシュ-

「ふぅ〜っ!よ〜し♪速歩っ!」

「まっ、まだ走るんですか!?」

「いや、急に止まるのは、

体に良くないかな〜!と思って♪」

-トットットッ-

「ふぅーっ!深呼吸!」

-とすん-

-とす-

「…それで‘大会議’って、

何を話し合うんですか!?」

「はっはっはっ♪

今回の‘大会議’は、

我々がこの山を降りるのか、

それともこの山で研究を続けるのか、

それを話し合っています…!」

「ツネタミさん、なんか元気ないですね…?」

「いや、すみません!

私はそろそろ山を降りる時期だと、

薄々は感じてはいるのですが、

‘大会議’をすることで、

一人一人が自分の決断を下すまで、

しっかりと話し合うのが、

この山の習わしですから…!」

「へぇーっ!

良いですね!

部族会議みたいだ!

この山に住む人が、

全員参加するんですか!?」

「ええっ!もちろんっ♪

それはもう、入れ替わり立ち替わり

そこかしこで、みな白熱した議論をするんですよ!

何が最良の選択なのか、

どう行動を起こすのか、

とても熱っぽい議論が、

何ヶ月も続きます♪」

「ぇええっ!?

そんなに続けるんですか!?

なっ、なんでまたそんなに!?」

「『話し合うことは、そこにいるすべての人に

恩恵がなければならない』

それが学坊の習わしなんです♪

言い負かすことや我を押し通すことではなくて、

他者との話し合いを通して、

自分を磨くことも学びの一つなんですよ♪」

「はぁ〜っ♪

それでこの山の人たちは、

みんな仲がいいんですね♪」

「はいっ♪

それも私たちの誇りなんです!

ただどうにも長くて…!

今は、少しでも時間が惜しいのですが…」

-すっ-

-すちゃ-

「たぶん我々も、

いずれは山を降りることになると思います!

ただその為には、

…かなりの準備がいるでしょうね!」

「…」

「私はすぐにでも山を降りたいのですが、

今しばらくの間は、

先生や仲間たちを支えたいと思います」

…ここでツネタミさんが山を降りちゃったら、

会議の収拾がつかなくなるんだろうなぁ…

みんな頼りにしてるみたいだし…!

…そうだ!

おりぇができることは何かないかな!?

「あのツネタミさん、

おりぇで良かったら何か手伝いますよっ!」

「ありがとう、じっぺいくん♪

でも大丈夫ですよ!」

「あ、おりぇじゃダメですか…?」

「いやいやいや!

そうじゃないんです!

私もやるべきことが、まだ明確じゃないんです♪

ただ気持ちだけがはやってしまって!

今年の干魃は、

間違いなくこの数年で一番酷いですから…!」

…そうか…!

こっちの世界の‘地球生命系’は、

もう限界に近いんだ…

「ツネタミさん!」

-すっく!-

「おりぇ、すぐにでもこの山を降ります!

それじゃあ行ってきます!」

「あっ、じっぺいくん!

待ってください!これを…っ!」

-ひゅるるる-

-ぱしっ-

「こ、この本なんですか!?

 …すごく綺麗な装丁だな〜♪」

-タッタッタッ-

「その本には

『幸せでいるためのコツ』

が書かれています♪

一日一ページでも、目を通してくださいね!」

「はいっ!

ありがとうございますツネタミさん!

じゃっ、行ってきま〜す!」

-タッタッタッ-

「…行ってしまいましたか…

…まるで疾風のような少年ですね」

-くるり-

「私も自分の闘いをしなければ…」

-すっく-

-すたすたすたすた-