大旱魃(だいかんばつ)


-こ~んん!-

-か~んんん-

「ああっ!?

あんなに木を切っちゃって、

大丈夫なんですか!?」

「…我らも手を焼いておる。

しかしながら、

旱魃がひどいのじゃ!

木を切って他のことに充てねば、

皆が死んでしまうのじゃ…」

「…こんなときに…!

…おりぇの巻物があったらなぁ!

どのくらいの植生(しょくせい)が

変化するのか、

直ぐにわかるのに!」

「おヌシの巻物は、随分いろいろと

書いておるのだのう♪

…やはりメモ魔じゃの♪」

「…んっ?

何か今…言いませんでしたか…先生?

まあ、そうですね…

おりぇがちっちゃい頃から使っているから、

ものすごい量の

書き込みがしてありますよ!

…たぶん、7、8年は使っているのかな!?」

「…7、8年も同じ巻物を使っていて、

ものすごい量が、書き込めると…?」

「そうなんです!

後、筒のところに草や土を入れると、

どこの草や土で、

どのくらいどんなところで

自生しているのかも、

直ぐにわかるんです!」

「…それは本当に巻物かのぅ…???

…どうもワシの思うておる巻物とは、

随分と何かが違うておるようじゃな…」

???

「さっき『いっぱい巻物がある』って、

言ってませんでしたか!?」

「…うむむ…巻物、違いかの?」

?????

「それにしても暑いのう…!!

昨今の旱魃(かんばつ)はすさまじいのぉ…!」

「…そんなにひどいんですか?」

「それはもうすさまじい!!

大地は干上がり、水は残らぬ!

作物も取れず、

人々の心は今にも挫けんばかりよ…!!」

「…」

「おヌシは見たかの…?

空からの眺めに、

無惨な爪跡が無数にあったことを…」

「きっ、気が付きませんでした!

飛んだことが嬉しくて…!!」

「それは良いことじゃ!

ワシも飛んだ甲斐があるというもの♪

それ!

あちらが学坊の入口じゃぞ!」

「うわ〜っ!!人がいっぱいいる!

…おりぇ、あの中に入ったら

人酔いしないかな…?」

「はっはっはっ!

それには酔い止めはなかろうな…!

はっはっはっ!」


三千学坊!


−ジャッ、ジャッ、ジャッ−

随分登るんだな〜!

「ふうっ…!

こりゃ思ったより、ずっと大変だぁ〜!」

「どうじゃ?

この道は嶮しかろう!?」

「うんっ!

想像していたよりもずっと嶮しくて、

足がムズムズしますっ!」

「はっはっはっ!

わざわざ一番嶮しい道を、

選んでおるからの!」

「…ぇえええ〜っ!?

なんでまたわざわざ…!」

「それはの、おヌシは若い!

だから道は嶮しい方が良かろう♪」

???

「…なんでですか?」

「そのうちに、分かる♪

わかるのだ、にょるじっぱい」

「おりぇの名前はにょるじっぱい、

じゃなくて、

にょるじっぺいですよ!」

なんだか、不思議な人だなぁ…!

威厳があるのに、くだけてて…♪

…?

それにしても、よくわからないな…?

道は険しい方がいい?

…ま、いっかっ!

「そのうち分かる!」

って言ってくれたわけだし♪

「それにしても、

見かけより、ずっと急ですね〜っ!

下から見たときは、

もっと緩やかに見えたのにっ…

…よっと!」

「そうじゃ!

この山には幻術がかかっておる♪」

「…幻術!

尻尾といい空を飛んだことといい、

シンヨウ先生、

‘魔法使い’みたいですねっ!?」

「尻尾はほれっ!

このとおり九尾である!」

「ありぇりぇっ、

さっきのは錯覚じゃなかったんだっ!

そうすると、

この山は幻術で、尻尾は現実で、

空を飛んだのは霊力か…!

…ちっ、違いは…何ですかっ???」

「そう大差はないの!

どれも人外(じんがい)の力じゃ!

はっはっはっ!」

「んんん〜っ…

ちっともわからない…!

…にゃんだるふの魔法とは、

また違うのかなぁ?」

「…おヌシ!今なんと申した!?」

「んっ?

あっ、魔法とは違うのかなぁ〜、って…」

「そ、その後じゃ!

‘にゃんだるふ’

と、言わなかったかの?」

「言いました!言いました!

にゃんだるふは

おりぇのお父さんで…!」

「…おヌシ、‘にゃんだるふ’どのの、

お子であったか!」

「えっ!?

にゃんだるふのことを

知っているんですか!?」

「知っているも何も!

にゃんだるふどのはワシの旧友じゃ!」

「えぇ〜っ!

そうだったんですかっ!

それで笑い方が豪快なのか♪」

「…?

どういう意味じゃ、それは???

…と、ともかく、

にゃんだるふどののお子は、

すでに先立たれたと聞いておったが…?」

「にゃんだるふは、

その後でおりぇのこと拾ってくれたんです!

そりぇからおりぇをずっと育ててくれて…

…亡くなったのはたぶん、

にゃんだるふと

奥さんの子どもじゃないかなぁ…

何度か話を聞いたことがあるから…」

「そうであったか!

どうりでまだ小さいわけじゃ♪

おヌシは幾つになるのじゃ?」

「おりぇ!?

おりぇは今年で…

今年で幾つになるんだろう!?

…っていうか、今年、何年!?」

…最後の誕生日祝いをしたのは、

一体、いつだったかな?

あれは確かにゃんだるふが、

患う前だったから…

ひい、ふう、み、よ、いつ、むう…

「…すぃません!おりぇ、

日付、覚えられません…!」

「…はっはっはっ!

それこそ豪快じゃの!

それもまた生き方よの~♪

よいよい!ラフじゃ!ラフにいけばよい!」

-ポリポリ-

なんか恥ずかしい…!

「よしっ!

わしの見立てでは、おヌシは15才じゃ!」

「15才!?

おりぇ、まだ全然そんな年じゃ!

お肌もピチピチだし!」

「まあ、それはよいのじゃ、

にょるじっぺい!

われらの里では15才は立派な大人じゃ♪

おヌシは、わりかし、しっかりとしておる。

それに腰の刀も飾りではなかろう?」

「…こ、これは!た、只の飾りですよっ!?」

「なんとっ!

竹光(たけみつ)であったか…!」

「あ、いえ!ただの新聞紙です…」

「なぬっ?新聞紙となっ!?

ワシの目はフシ穴であったか!」

「はい…!…あ、いえいえ!

‘大都’でもらったんだけど、

なんか悲しいことばっかり書いてあるから、

丸めちゃいました…!

おりぇがにゃんだるふと暮らしていた、

‘あっちの世界’では、

こんな悲しいことはなかったかりぁ…」

−ジュル−

「…よいよい。もうもう、申すな♪

さぞや辛かったであろう…!」

−ズルッ−

−ぐすん−

「ざぞやにゃんだるふ殿は、

おヌシを慈しんで育てたのであろうな!」

−じゅるじゅる−

-ずび〜-

「にゃんだるふ殿は

ワシに申しておったとおり、

安らぎを探しに行かれたのじゃな…!」

−ちぃ〜ん−

「ほれっ!

面を上げるのじゃ!

見えてきたぞ!

我らが三千学坊が♪」

「あっ…!」

う〜わぁ〜〜〜っ♪

すっごいなあ!

屋根があんなに並んでる!

ギャロン渓谷みたいだ!

−じゅり−

「あれは家ばかりでないぞ!

我らが学び舎であり、

この世界の無二の‘学問所’なのじゃ!」

「うわぁ〜っ♪

すごい眺めだな〜っ!」

「ぬっ…!聞いておらんな!?」

あんなてっぺんまで、屋根が見えたぞ!

誰が住んでいるんだろう!?

「ここでは何を学べるんですか!?」

「古今東西のあらゆることじゃ!

しかしその前に、オヌシ!

目の前の人間からも、学ぶことが大事じゃぞ!

まあ、ともかく…三千学坊へ良く来たの♪

皆、歓迎するぞっ!」

「やったぁ〜♪着いたーっ!」

−タッタッタッ−


黒い箱が鳴り出した!


−ちりりりりりりり♪−

んっ?黒い箱が鳴ってるぞ?

んんん・・・?

「ありぇりぇっ!?

さっきの‘風土の音色’が聴こえてくるぞ!?」

「ほうっ!おヌシ、

珍しいものを持っておるな!」

「こりぇのこと知ってるんですか!?

何ですか、こりぇ?」

「それは箱じゃ!」

「そ、それはそうですけど…

もう少し詳しく話してまらえませんか?

おりぇ、’こっち’に来たばかりで…!」

「そうじゃのぅ…!

オヌシはまだまだ、ニュ~カマ~♪

説明がたっくさん必要じゃのう、

にょるじっぺい、じっぺいよ!

それは波や揺らぎを捕まえられる箱…!

と聞いたらどうする、どうする?」

「こ、こりぇ…

そんなにすごい物だったんですかっ!?

そうと知らずに、

食べ物も突っ込んじゃった…!

…って、なんで2度も名前を…?」

「はっはっはっ!

気にするな、気にするな!

そして案ずるな!

その程度で壊れはせぬ、うむ♪」

−ほっ−

…良かった♪

…なんか、すごいものを拾っちゃったな!

「嬉しいなぁ~っ♪」

「その箱はの、

この大地の至る所に眠る

‘風土の音色' や ‘大地の記憶’

を記録するための箱なのじゃ!

うまく使えば、

己の人生すら変えられようぞ♪」

「へぇーっ!

そんなにすごいものなんですか!

早速使ってみよ~♪」

−ゴシゴシ−

−カパッ−

フンフフンフ~ン♪

「…どうやって使うんですか、これ?」

「はっはっはっ!なに、

『採ってくれ』というだけじゃ!」

「へえぇ!

…じゃ、じゃあ!取手くれっ♪」

−がんっ!−

−ごごん!−

−ジリッ−

…んっ?

今ので採れたのかな?

−ごそごそ−

「あっ!

木のざわめきが採れてるぞ!

これ、すっごいなぁ~!

巻物みたいだ!」

「…巻物…巻物とな?

なんの巻物じゃ?

エッチな巻物ではないのかの…?

いかんぞ、にょるじっぱい、じっぱい!

オヌシには、まだ早すぎる!」

「お、‘おりぇ(じっぺい)の巻物’っていうのは…!

…おりぇが

‘あっち’から‘こっち’にくる途中で、

落としちゃったもののことですよ!」

「ふむ…!

さぞや大切なことが、

たくさん記してあったのじゃろうな。

なんとなくオヌシはメモ魔のニオイがする…!

…どうじゃ?

代わりと言ってはなんじゃが、

ワシの巻物を見せてやろうかの♪」

「いいんですか!?

そりぇは助かります!

巻物があれば、

今まで調べたことも全部わかるし♪

…なんで、おりぇがメモ魔だって…!?」

「ふはは!

なんかそんな顔をしておる!

早速ついて来るが良いぞ♪

向上心旺盛な若者は、大歓迎じゃ!」

「はいっ!ついてきま〜すっ♪」

-とっとっとっ♪-

「よいか、にょるじっぱい、じっぱい♪

あまり見知らぬ人についていくのでは、ないぞ…?

大変なことになるかもしれない、からの!」

「は~い♪」

-とっとっとっ!-