風土の音色


−ふひゅぅっ!−

すっ、すごいぞっ!

おりぇ、今っ、空を飛んでるっ!?

なんてこった〜っ!

あんな高い山まで

まる見えじゃまいかっ!

「どうじゃ、にょるじっぺい!

…気分も良かろうっ!?」

「いや、こりゃもう!

気分が良いなんてもんじゃなくて!

夢みたいだなぁ〜っ!!」

うわぁ〜!

綺麗に尻尾がなびいているなぁ〜!

−すふぁふぁっ−

「あれが富士じゃ!」

「あれが噂の…マウント富士!

…フジヤマ!ゲイシャ…!」

「芸者がどうしたのじゃ!?」

「あっ、いや!

巻物でしか見たことがなかったから、

つい興奮して!」

「なにっ!?芸者にかの?

やるの~!若い身空で!」

「ちちち、違います!

富士山に…!!」

「はっはっはっ!

そうじゃの!富士は良いの!

一日たりとも

ワシらに同じ顔は見せてくれぬ!

日々新たな顔で、

ワシらを楽しませてくれるのじゃ♪」

「『日々新たなり』か!

ホンモノはやっぱりすごいな!!

見ると聞くとじゃ大違いだっ!」

「そうじゃ!

『日にまた新たなり』じゃ!

人も山も、

一日とて同じではならぬ!」

阿蒙(あもう)ですかっ!?

…あっ!あれは何ですかっ!?」

「あれは‘日の本のへそ’じゃ!」

「あれがへそ!

綺麗な湖だな〜っ♪

水面が全く動いてないように見えるや♪」

「伝え聞くには、

ここが日の本の折り返し地点らしいの。

…ほれ、あちらは‘内海’じゃ!」

「あれが海!?

あんなに静かなのに!?

…綺麗だなぁ〜♪」

…あれっ!?

音が聞こえてくるぞっ!

…ありぇは…

風土の音色’だ!

「やっぱりこっちの世界も

歌っているんだ!」

「ほうっ!おヌシ、

‘風土の音色’が聴こえるのか♪

良きこと、良きこと!

にょるじっぺい、じっぺい!

人も木も草も、皆歌っておるぞ!」

「‘風土の音色’が鳴り響いている!」


綺麗な音だなぁ〜♪

…ところでなんで、

名前を2度繰り返していたんだろう?

-ヒュヒュヒュヒュ♪-



我が名はシンヨウ


「おヌシは何者であるか?」

うわわわわっ!?

尻尾がいっぱいある…!

何だこのキツネ!?

すっごい威圧感だ!

目が合わせられないや…!

「二度も問いかけるのはなんじゃが、

おヌシは何者じゃ?」

まずいなっ…!

体が動かないぞっ!

−ガチガチ−

「おっ…!おりぇの名前はにょるじっぺい!

そっ、そんでこれはカッコントウでぇす!」

「尋ねてはおらんが、それは薬筒であったか…

それで、にょるじっぺい、何処より参った?」

「…ぶっ、無礼な人だな!こっちが名乗ったら、

そっちも名乗るもんでしょうに…!」

「…これは失礼仕った♪

我が名はシンヨウ

鎮西(ちんぜい)より参り、

今は遊学の身である!」

−ぺこり−

「あっ、いえいえ、こちらこそ…♪」

−ペコリ♪−

なっ、なんだ♪

話せそうな人で良かった~♪

「実はかくかくしかじかで!」

「…ふむむ、火ギツネとな…!

なかなか珍しいものを探しておるな!!

火ギツネはこれより南西の方、

我が祖国である鎮西の中程、

火の山’の火口付近に住んでおるぞ!」

「えっ…‘火の山’にいたのっ!?

…2、3週間前に通ったのになぁ〜!

あ〜ぁ…!」

−ガク〜ン−

「そんなに落ち込むでない、若人♪

おヌシの脚なら、すぐにでも参れようぞ!

…とはいえ鎮西は遠き方じゃ。

ワシが送り届けてしんぜよう!」

「いやぁ〜!送り届けるなんて、

そこまでして頂かなくても…

…ぅわわわわわっ!!」

うっ、浮いたっ!?

「我が術をしかと見よ!」

−どどーんっ!!−

−ひゅるるっ!!−

「ぅうううううわ〜〜〜〜ぁ!!

あぁぁぁぁぁぁ…」

-キラーン-


‘セイタロウさんの森’にて


むむむむむっ!

火ギツネを探しに来たのは良いものの、

こっちの世界の森は、

何だか勝手が違うぞ…!

なんだか杉ばっかりで、

鼻がムズムズしてきた…!

…ひょ…ひょ…ひょえ〜ぃ!


びえぇっくしょ〜いぃっ!!!!


−ズルズル−

う〜ん、火ギツネ探す前に

おりぇもマスクが欲しいなぁ…

こっちの人たちが、

なんでマスクをしていたのか、

ようやくわかったぞ…!

ありぇはオシャレじゃなかったんだっ…!

−じゅる−

…とと、この一角はすごく明るいな!

おっ!

コナラやクヌギも生えてるぞっ!!

−がさがさ!−

この森はあっちの世界の森と

よく似ているな!

光が射して、

生態系(せいたいけい)も

しっかり残っているし!

−がささっ−

ありゃ!?

こりゃ‘巣植え’だぞ!?

この森は

‘ニンゲン’の手が入っているのか!

…ってことは、

やっぱりこの辺にも火ギツネが!

…んっ!?

…なんだろうな…

妙な気が漂ってきたぞ!?


−ゾクッ−


まずいぞ!

明るい森だと思って油断してた…!

何かのテリトリーに入っちゃった!!

こりゃホントにまずいぞ…!!


−すぅううわ…−


あつ!?

なんだあの尻尾!?

九本もある!!