遠き道を行くがごとし


-タッタッタッタッ-

「あれっ!じっぺいくん、どちらへ!?」

「あっ、ツネタミさん!

おりぇ!山を降りようと思うんです!」

「そうですか…残念です…!

…ここで学んだことは、何か役に立ちそうですか?」

「はいっ、とっても!

おりぇ、ここで学んだ沢山のことを活かして、

’こっち’の世界を見て回ろうと思います!」

「そうですか、遊学ですか!

…私も一緒に行きたいのですが、

ついに学坊全体での‘大会議’が始まったので、

しばらく身動きが取れません…!

…残念です」

「だっ、‘大会議’??」

-タッタッタッ-

「…じ、じっぺいくん。

もし良かったらそこに座りませんか?」

「…あっ!しまった!止まるの忘れてた!

…では、お言葉に甘えて…♪」

-タッタッタッ-

-タシュ-

「ふぅ〜っ!よ〜し♪速歩っ!」

「まっ、まだ走るんですか!?」

「いや、急に止まるのは、

体に良くないかな〜!と思って♪」

-トットットッ-

「ふぅーっ!深呼吸!」

-とすん-

-とす-

「…それで‘大会議’って、

何を話し合うんですか!?」

「はっはっはっ♪

今回の‘大会議’は、

我々がこの山を降りるのか、

それともこの山で研究を続けるのか、

それを話し合っています…!」

「ツネタミさん、なんか元気ないですね…?」

「いや、すみません!

私はそろそろ山を降りる時期だと、

薄々は感じてはいるのですが、

‘大会議’をすることで、

一人一人が自分の決断を下すまで、

しっかりと話し合うのが、

この山の習わしですから…!」

「へぇーっ!

良いですね!

部族会議みたいだ!

この山に住む人が、

全員参加するんですか!?」

「ええっ!もちろんっ♪

それはもう、入れ替わり立ち替わり

そこかしこで、みな白熱した議論をするんですよ!

何が最良の選択なのか、

どう行動を起こすのか、

とても熱っぽい議論が、

何ヶ月も続きます♪」

「ぇええっ!?

そんなに続けるんですか!?

なっ、なんでまたそんなに!?」

「『話し合うことは、そこにいるすべての人に

恩恵がなければならない』

それが学坊の習わしなんです♪

言い負かすことや我を押し通すことではなくて、

他者との話し合いを通して、

自分を磨くことも学びの一つなんですよ♪」

「はぁ〜っ♪

それでこの山の人たちは、

みんな仲がいいんですね♪」

「はいっ♪

それも私たちの誇りなんです!

ただどうにも長くて…!

今は、少しでも時間が惜しいのですが…」

-すっ-

-すちゃ-

「たぶん我々も、

いずれは山を降りることになると思います!

ただその為には、

…かなりの準備がいるでしょうね!」

「…」

「私はすぐにでも山を降りたいのですが、

今しばらくの間は、

先生や仲間たちを支えたいと思います」

…ここでツネタミさんが山を降りちゃったら、

会議の収拾がつかなくなるんだろうなぁ…

みんな頼りにしてるみたいだし…!

…そうだ!

おりぇができることは何かないかな!?

「あのツネタミさん、

おりぇで良かったら何か手伝いますよっ!」

「ありがとう、じっぺいくん♪

でも大丈夫ですよ!」

「あ、おりぇじゃダメですか…?」

「いやいやいや!

そうじゃないんです!

私もやるべきことが、まだ明確じゃないんです♪

ただ気持ちだけがはやってしまって!

今年の干魃は、

間違いなくこの数年で一番酷いですから…!」

…そうか…!

こっちの世界の‘地球生命系’は、

もう限界に近いんだ…

「ツネタミさん!」

-すっく!-

「おりぇ、すぐにでもこの山を降ります!

それじゃあ行ってきます!」

「あっ、じっぺいくん!

待ってください!これを…っ!」

-ひゅるるる-

-ぱしっ-

「こ、この本なんですか!?

 …すごく綺麗な装丁だな〜♪」

-タッタッタッ-

「その本には

『幸せでいるためのコツ』

が書かれています♪

一日一ページでも、目を通してくださいね!」

「はいっ!

ありがとうございますツネタミさん!

じゃっ、行ってきま〜す!」

-タッタッタッ-

「…行ってしまいましたか…

…まるで疾風のような少年ですね」

-くるり-

「私も自分の闘いをしなければ…」

-すっく-

-すたすたすたすた-


そろそろ火ギツネを…


-ぽつ〜ん-

「…はぁ…」

-とぼとぼとぼ-

-たすっ-

ふぅ〜〜

植衛門おじさんにもう一度、黒い箱を預けたら、

…することがなくなっちゃったなぁ…

…この山に来てから、

随分いろんなことを教わったけど、

頭の中が整理できてないし、

まだ知識を活かす機会も少ないなぁ…

-ぽふっ-

…こんなとき巻物があればなあ…

いろいろ覚え書きを読み返せるのに…

「…ふぅ〜」

…考えても仕方ないか!

無いものは無いわけだし

それにしてもおりぇは、

一体どこで、草一文字や巻物を

なくしちゃったんだろう?

こっちに来るときの

‘大河’を渡ってくるときには、

ちゃんと持っていたはずなんだけど…

-かこ〜〜〜んっ-

あっ!

ここまでおじさんのところの添水(そうず)が

聞こえてきたぞ♪

やっぱり朝はいいなぁ〜!

山の霊気を分けてもらう感じだな♪

「よしっ!」

-すっく-

「シンヨウ先生に、

この山を立つことを伝えよう!」

火ギツネを探して、森を守らなきゃ!

-タッタッタッタッ-


言葉がわからない…


「…う…う〜ん…」

はっ!

「くっ、くさいっ!!!!!!!!!!!!!

…んっ!?

ありぇ?おかしいな?

全然臭くないぞ?ありぇりぇ???」

-ガラッ!-

「お〜!

起きたか〜〜〜!

どうじゃ〜寝覚めは〜〜〜!?」

「えっと…

何だかすごっく臭っい気がしたんですけど…

特別何か匂うってわけじゃなくて、

不思議な感じで…」

「ほほ〜〜〜!

何故かの〜〜〜!」

「…っておりぇ、

話の途中で寝っちゃってました!?

…す、すみません…!」

-ぺこり!-

「いやいやいやいや〜〜〜!

は、話の内容が少し複雑だったからの〜〜〜♪

がははっ!」

「ああ!そうだった!

じせいずうたいとか、こんぴゅ〜てんとか…」

んっ!?

「こ、ここここ、ここどこですかっ!?

ありぇりぇりぇりぇ〜!?」

「おお〜〜〜っ!

退屈して居眠りこいて居ったから、

ちょいとわしの仕事場に連れてきたのじゃ〜っ!

息抜きになろ〜〜〜!?」

「やった~♪

なんかここ、

色んな機械があって面白いです!」

「ははは〜〜〜!

あそこは冷えるしな〜〜〜っ!

山は寒い!

寒すぎるわ〜〜〜っ!!」

「そんなに寒いですか?」

「いやもう、腹が立つくらいになぁ〜〜〜♪」

「は、腹が立つほど寒い…」

オモシロい表現だな…♪

「熱い大地はますます暑く!

そして寒い大地はますます寒く!!

めっちゃくちゃな大気の乱れ!!

死ぬな!

このままいくと!」

「だっ!誰が死ぬんですかっ!?」

-ガタッ!-

「もちろん真っ先にわしじゃ〜〜〜!!

寒くて死ぬわ〜〜〜っ♪

がっはっはっ!」

「おっ、おじさんからですか!

…はっはっはっ♪」

「そうじゃ〜わしじゃ〜〜〜!

故郷を離れ、異国にて寒さでくたばる!

ひ〜さぬや〜!」

「ひ〜さぬや〜?」

「さむい〜ってことじゃ〜〜!

べり〜こ〜るどね!」

「おっ、おじさんはどこから来たんですか!?」

「龍宮〜!」

「あっ!それで寒がりなんだ~♪」

「に〜に〜、まなぶに〜だね〜♪

勉強し過ぎて、

まなぶり〜にならんようにね〜〜〜♪」

???

...!

「取ってこい!」

-ひゅるっ!-

「これでよしっと♪」

「おっ!

使いこなしておるの〜〜!

少し改良しておいたよ〜〜〜!」

ありぇりぇ♪

おじさん、言葉が混じってきた!

「おじさんは薩摩訛りで話すときがありますね!」

「そうそう!

ときたま出てくるんよ!

筑紫の訛りも出るよ〜〜!

ここに来て長いからね!

ふぅ…」

ありぇ…薩摩の話は、まずかったのかな…

「あの…気分悪くしちゃいましたか…?」

「なにをっ?ホワットゥ???」

「あ、いや、その薩摩のことなんですけど…」

「???

…!

あ〜〜〜っ!

がっはっはっ♪

に〜に〜、まなぶり〜だ!

がっはっはっ!」

ありぇ...?

ありぇありぇ...??

「過ぎたことだよ〜〜〜♪

昔のこと知っているの、いいことだね!

でも、過去に捉われたらダメだね♪

わかる〜?」

「…」

うっ、ちょっと自分が情けなくなってきたぞ…

「デリカシ〜は大事ね♪

がはっ、がはははっ!」

「…ふへへ♪」

-プゥ♪-


南から来た発明家


「これ、こんぴゅ〜たって言うんですか!?」

「いかにも〜!

それは特に、パソコンと呼ばれておる代物じゃ〜!」

「ぱ、ぱそこん?」

「長いとパーソナルなコンピュータで、

短いとパソコンじゃ〜〜!

ちょいとレガシー(古め)な代物じゃわいなぁ〜!」

「れ、れがしぃ…!」

わ、わかんない言葉ばっかりだなぁ〜!

こんなとき、巻物があれば…

「どれぇ〜、少し貸してみぃ〜〜〜♪」

「あっ、どうぞ♪」

-カチャ!-

「ほほうっ!ほほっ〜〜〜!?

…ほっ!?」

「ほっ!?どうしたんですかっ!?」

「これはマニアックじゃの〜〜〜!」

「へぇ〜っ!」

…いいのかなっ!?

…悪いのかな?

-カチャカチャカチャ-

「これ、わしに貸してみんかぁ…?

直しちゃるぞい!」

「…えっ、

…まだ壊れてるんですか?」

…おりぇが直したくらいじゃ

ダメだったのか…!

-しょぼ〜ん-

「いやいやいや〜〜!

中々良く直しておてるよ〜〜ん♪

ただの〜、部品が足りておら〜んっ♪」

「ああ〜っ、そうだったのか!

どうりでスカスカしてたわけだ♪」

「オヌシィィ!変わっておるの〜〜♪」

「えっ!そうですか?

そうなのかな…?」

「がはっ!がはっ!

がはははは〜〜〜っ!」

-ブウッ〜〜〜!-

「はっはっはっ!

…むっ!

…く、臭いっ…!」

「すま〜んの〜っ♪

ひり出してしもおたーっ!

がっはっはっ♪」

「はっはっはっ…

…ぐえぇ〜っ…おえっ…!」

-ばた〜〜んっ!-

「おっ!?だ、大丈夫か〜っ!?」

-ごろん-

「ぐが〜ぐが〜」

「こやつ〜っ!

屁が臭くて気を失ってしもうた上に、

そのまま寝ておるぞ〜〜〜!?」

-ズルズルズル-

「がはっ!がはっ!がはは〜〜!

家に連れて帰るかな〜〜〜!

…よいせっ!」

-ブウウウッ!!-

「がはっ!がはっ!

がははははははは〜〜〜っ!!」

-ズルズルズルズル-


語らいの一時♪


-…かこーん-

…い〜ぃ鹿威し(ししおどし)だな〜っ!

…って、また水を使うものだな…?

水不足って言うわりには、

水が豊富だな、ここは…?

-がらがら!-

「おおっ!お待たせっ!」

「あっ!この間はどうも!

じっぺいです♪

そしてこれはカッコントウ♪」

「はは〜!

シンヨウ先生の横で、

ずっとそうめんばかり食っとったやつだな!」

「はっ、恥ずかしい…!」

-テレッ-

「若いうちは皆そうじゃ〜〜!

食い気、好奇心、それに色気とな!

大体、相場が決まっておる!

がっはっはっは!」

なんだかえらく気っ風の良い人だな〜!

「先生から聞いたぞ!

‘マージナル・アイランド’から、

来たそうじゃの〜!」

「はっ、はい!

こっちではそう呼ぶってことを、

先週少しだけ勉強しました!」

「ははぁ〜!

随分と絞られているようじゃなぁ〜!

がはは〜っ!」

-コクッ-

「何となく嫌な予感がしていたんですが、

この山に入ったら、

必ず勉強しなければならないんですね…」

「がはっはっ!

若い身空にはキツい仕置きじゃの〜〜〜!

ワシも逃げ出したいわ〜〜!」

「はっはっはっ♪

おじさんもですか!」

「がっはっはっ!

ここの連中は生真面目過ぎるわ〜〜!

さて、なんでも良いぞ!

わしのカラクリ、発明、実験の所産を

楽しんでくれぇ!」

「あっ!そっか♪

ええっと!まずは、

水がないのになんで鹿威しが出来るのか、

教えてください!」

「がっはっは!

あの添水(そうず)は、

磁性流体と電気回路の実験じゃ〜!

水は使っておらん!

がっはっは!」

「…そ、そうず?

じ、じせいりゅうたい???

なんですかそれっ!?」

「話すと長い!

手短に言うと、

コンピュータを作っておるのじゃ〜〜〜!」

「みっ、短い!」

こ、こんぴゅ〜た?

「こんぴゅ〜たって、なんのことですか!?」

「がっはっはっは!

おぬし持っておるではないかぁ〜!」

んんっ!?

おりぇが?

「それじゃ〜〜っ!

お腰に付けたモモタロさん!

箱を開けたらドンガバチョ!」

「こ、こりぇ〜!?」

この黒い箱がっ!?

-ガチャ-


そうめんずるずる!!

-ズルル!-

う〜ん!

うまいっ♪

このそうめん、茹で具合がっ抜群だっ♪

おりぇ、このくらいコシのある

そうめんが好きだな~!

-ズルズル!-

シ「どうじゃ!うまかろう!?」

-ずるり-

「はいっ!うまいですっ!」

-ズルズルズルズル!-

ツ「わたしも楽しみにしていたんですよ♪」

-ズズズッ-

ツ「今年の水不足は一段と深刻で、

これが今年の初そうめんになります♪」

「…そうなんですか…

こっちは水不足がひどいんですね…」

-ズッ-

?「そうなんじゃ!

山の恵みがあるものの〜、

山を捨てるものも多いぃ、のっ!」

-ずるずるずるずるずるずるずるる!-

なんかおもしろいおじさんだな♪

-ズルズルズルズル!-

-ズズズズッ-

-ズヒョヒョヒョヒョ!-

ツ「…しかし植衛門どのの、新たな街作り、

上手くいきそうですな♪」

-ズズッ-

シ「うむっ♪

この調子なら、新しい土地にも行けようぞ!」

-ずるずる-

「植衛門さんって、このおじさんのこと?」

-ズズズ!-

ツ「そうです♪

この学坊に、

いや、今後の日の本に

なくてはならない人です!」

ずるっ!

植衛門「ははは〜!照れますなーっ!」

シ「良かったら今度、

二人っきりで会ってみるかの!?」

「…えっ?それどういう意味ですか…!?」

植衛門「平たく言えば、

ワシと合コンということじゃなぁ〜〜〜!」

-ずるずるっ-

シ「ヨシッ!

ワシがせってぃんぐしてやろうっ♪」

-ズビズビズビ-

シ「めんつゆも、うまいの〜!」

ご、ごうこんの…

…せってぃんぐ?

…なんだかおもしろそうじゃまい!

-ズッ-


大流しそうめん大会!


-ひゅるひゅるひゅる〜っ-

-ずささっ!!-

「とりゃあっ!!」

「しまった〜〜〜っ!!うぬぬ〜〜っ!!」

な、なんて壮大なスケールの

流しそうめんなんだ!

あ、あんな山のてっぺんから、

わざわざ…!

「おおっ、やっておりますな!」

「むぅ…!

…またワシの書物がびしょ濡れじゃ…!

…それにお気にの枕もの…!」

「今年は水不足が一段と深刻になりましたので、

心配ご無用ですぞ♪

濡らす程の水があり申さん!

はっはっはっ♪」

「…そうかっ!

今年はワシも安眠できるのじゃな!

良かった良かった♪

お気にの枕を高くして眠れるわの♪」

そ、そこ…!?

み、水不足は…?

「今年より、

植衛門どのの新たな試みも

上手くいきましたので

もう水が飛び散ったり、

先生の部屋にそうめんが落ちることは、

ありませんぞ♪」

「さすが植衛門どのじゃな♪

…良かったワシの枕!」

…そうめんまみれの部屋って、

ちょっと見てみたいかも…!?

-ひゅるるるるる-

ありぇ!?

いまそうめんの固まりが、

空を飛んでいたぞ!?

-ひゅうううう〜-

-バシッ!-

「おおっ、御見事♪

そうめんが空を舞っておりますぞ!」

「うむっ♪

汁ひとつ飛び散っておらぬ、見事じゃ!」

「さすがは植衛門どの!」

-タッタッタッ-

-プゥ〜-

「おお〜っ!

殿方!

ご覧になられましたか~っ!?」

「おおっ♪植衛門どの!

実に見事じゃの〜♪」

「ありがとうございます!

皆の力が大きかったようで~!」

-プゥ-

「これなら、うまくいきそうじゃの♪」

「はいっ!」

何の話してるのかな?

そうだ、今のうちにおりぇもそうめんを!

-いそいそ-

-モグモグモグモグモグ!-


仁の人ツネタミ!


-トットットットッ-

「せんせぇ〜っ!

せんせ〜〜〜ぇっ!」

「おおっ、ツネタ!今戻ったぞ♪」

おっ!?

なんか感じのいい人だなぁ!

優しそうだ~♪

「お早いお戻りで!」

「うむっ、少しヤボ用が出来てな♪」

「野暮用ですと!?

…して、こちらのお方は?」

「この者はにょるじっぺい!

セイタロウどのの森で出会うて、

火の山を目指しておるそうじゃから、

ここまで連れてきたのじゃ♪」

「ミチノクからここまで…!

それは大変なお戻りで…!」

「…あっ、あの、初めまして♪

おりぇの名前はにょるじっぺい!

これはカッコントウです♪」

-ぺこり-

「これはこれは!

わたくしはツネタミオ。

ツネタと呼ばれております!

初めまして!」

-ぺこり!-

「あ、いやいやこちらこそ!」

-ぺこり、ぺこり♪-

「そちらの葛根湯は、行商ですか?」

「あっ、いえ!

これはただの、

…新聞紙を丸めただけのものです…!」

なっ、何だかまた説明するのが

ちょっと恥ずかしいなぁ…

「ほぉ!」

「あっあっあっ!あのですね!

本当は‘草一文字’っていう

太刀を持っていたんですけど、

大河を渡る途中に落としちゃって!」

「ほうほう!それでっ!?」

「あの、東の都でこれをもらったから、

取り敢えず腰にさして…」

「…ははぁ〜♪なるほど!」

「…んえっ?」

「なるほどなるほど!

納得いたしました!

『世の憂いを一刀の下に、世直しカッコントウ』

というわけですな♪」

「…え…ええぇ〜!?」

「はっはっはっ!

このように素直な若者じゃ♪

ワシが連れてきた理由もわかろう!」

「なるほどなるほど!納得いたしました!

『鉄は熱い打ちに打て』

ですな♪」

???

…何だか嫌な予感が…!

「はっはっはっ♪

では参ろうかの!」

「参りましょう♪

今日は皆、張り切って

そうめんを打っておりました!」

「…まさかおヌシたち!?

またワシの学坊から、

そうめんを流す気なのかのっ!?」

「ハッハッハッ!

一切、水は無駄にしておりませんぞ♪」

「左様なことを申しておるのではない!

なぜワシの学坊の上から、

毎年っ毎年っ、行うのじゃ!?」

「人の上に立つお方は、

お手本となりませぬと!

ハッハッハッ♪」

「む、む、むっ!

…好きにせいっ!」

…なんだかよくわからないけど、

すごい状況に

出くわしてしまったような気がするぞ…!!

…しかしきっと、

美味し~流しそうめんなんだろうな!

-ぐぅ〜っ-

それにしても、

水不足は…大丈夫なのかなぁ…?


大旱魃(だいかんばつ)


-こ~んん!-

-か~んんん-

「ああっ!?

あんなに木を切っちゃって、

大丈夫なんですか!?」

「…我らも手を焼いておる。

しかしながら、

旱魃がひどいのじゃ!

木を切って他のことに充てねば、

皆が死んでしまうのじゃ…」

「…こんなときに…!

…おりぇの巻物があったらなぁ!

どのくらいの植生(しょくせい)が

変化するのか、

直ぐにわかるのに!」

「おヌシの巻物は、随分いろいろと

書いておるのだのう♪

…やはりメモ魔じゃの♪」

「…んっ?

何か今…言いませんでしたか…先生?

まあ、そうですね…

おりぇがちっちゃい頃から使っているから、

ものすごい量の

書き込みがしてありますよ!

…たぶん、7、8年は使っているのかな!?」

「…7、8年も同じ巻物を使っていて、

ものすごい量が、書き込めると…?」

「そうなんです!

後、筒のところに草や土を入れると、

どこの草や土で、

どのくらいどんなところで

自生しているのかも、

直ぐにわかるんです!」

「…それは本当に巻物かのぅ…???

…どうもワシの思うておる巻物とは、

随分と何かが違うておるようじゃな…」

???

「さっき『いっぱい巻物がある』って、

言ってませんでしたか!?」

「…うむむ…巻物、違いかの?」

?????

「それにしても暑いのう…!!

昨今の旱魃(かんばつ)はすさまじいのぉ…!」

「…そんなにひどいんですか?」

「それはもうすさまじい!!

大地は干上がり、水は残らぬ!

作物も取れず、

人々の心は今にも挫けんばかりよ…!!」

「…」

「おヌシは見たかの…?

空からの眺めに、

無惨な爪跡が無数にあったことを…」

「きっ、気が付きませんでした!

飛んだことが嬉しくて…!!」

「それは良いことじゃ!

ワシも飛んだ甲斐があるというもの♪

それ!

あちらが学坊の入口じゃぞ!」

「うわ〜っ!!人がいっぱいいる!

…おりぇ、あの中に入ったら

人酔いしないかな…?」

「はっはっはっ!

それには酔い止めはなかろうな…!

はっはっはっ!」


三千学坊!


−ジャッ、ジャッ、ジャッ−

随分登るんだな〜!

「ふうっ…!

こりゃ思ったより、ずっと大変だぁ〜!」

「どうじゃ?

この道は嶮しかろう!?」

「うんっ!

想像していたよりもずっと嶮しくて、

足がムズムズしますっ!」

「はっはっはっ!

わざわざ一番嶮しい道を、

選んでおるからの!」

「…ぇえええ〜っ!?

なんでまたわざわざ…!」

「それはの、おヌシは若い!

だから道は嶮しい方が良かろう♪」

???

「…なんでですか?」

「そのうちに、分かる♪

わかるのだ、にょるじっぱい」

「おりぇの名前はにょるじっぱい、

じゃなくて、

にょるじっぺいですよ!」

なんだか、不思議な人だなぁ…!

威厳があるのに、くだけてて…♪

…?

それにしても、よくわからないな…?

道は険しい方がいい?

…ま、いっかっ!

「そのうち分かる!」

って言ってくれたわけだし♪

「それにしても、

見かけより、ずっと急ですね〜っ!

下から見たときは、

もっと緩やかに見えたのにっ…

…よっと!」

「そうじゃ!

この山には幻術がかかっておる♪」

「…幻術!

尻尾といい空を飛んだことといい、

シンヨウ先生、

‘魔法使い’みたいですねっ!?」

「尻尾はほれっ!

このとおり九尾である!」

「ありぇりぇっ、

さっきのは錯覚じゃなかったんだっ!

そうすると、

この山は幻術で、尻尾は現実で、

空を飛んだのは霊力か…!

…ちっ、違いは…何ですかっ???」

「そう大差はないの!

どれも人外(じんがい)の力じゃ!

はっはっはっ!」

「んんん〜っ…

ちっともわからない…!

…にゃんだるふの魔法とは、

また違うのかなぁ?」

「…おヌシ!今なんと申した!?」

「んっ?

あっ、魔法とは違うのかなぁ〜、って…」

「そ、その後じゃ!

‘にゃんだるふ’

と、言わなかったかの?」

「言いました!言いました!

にゃんだるふは

おりぇのお父さんで…!」

「…おヌシ、‘にゃんだるふ’どのの、

お子であったか!」

「えっ!?

にゃんだるふのことを

知っているんですか!?」

「知っているも何も!

にゃんだるふどのはワシの旧友じゃ!」

「えぇ〜っ!

そうだったんですかっ!

それで笑い方が豪快なのか♪」

「…?

どういう意味じゃ、それは???

…と、ともかく、

にゃんだるふどののお子は、

すでに先立たれたと聞いておったが…?」

「にゃんだるふは、

その後でおりぇのこと拾ってくれたんです!

そりぇからおりぇをずっと育ててくれて…

…亡くなったのはたぶん、

にゃんだるふと

奥さんの子どもじゃないかなぁ…

何度か話を聞いたことがあるから…」

「そうであったか!

どうりでまだ小さいわけじゃ♪

おヌシは幾つになるのじゃ?」

「おりぇ!?

おりぇは今年で…

今年で幾つになるんだろう!?

…っていうか、今年、何年!?」

…最後の誕生日祝いをしたのは、

一体、いつだったかな?

あれは確かにゃんだるふが、

患う前だったから…

ひい、ふう、み、よ、いつ、むう…

「…すぃません!おりぇ、

日付、覚えられません…!」

「…はっはっはっ!

それこそ豪快じゃの!

それもまた生き方よの~♪

よいよい!ラフじゃ!ラフにいけばよい!」

-ポリポリ-

なんか恥ずかしい…!

「よしっ!

わしの見立てでは、おヌシは15才じゃ!」

「15才!?

おりぇ、まだ全然そんな年じゃ!

お肌もピチピチだし!」

「まあ、それはよいのじゃ、

にょるじっぺい!

われらの里では15才は立派な大人じゃ♪

おヌシは、わりかし、しっかりとしておる。

それに腰の刀も飾りではなかろう?」

「…こ、これは!た、只の飾りですよっ!?」

「なんとっ!

竹光(たけみつ)であったか…!」

「あ、いえ!ただの新聞紙です…」

「なぬっ?新聞紙となっ!?

ワシの目はフシ穴であったか!」

「はい…!…あ、いえいえ!

‘大都’でもらったんだけど、

なんか悲しいことばっかり書いてあるから、

丸めちゃいました…!

おりぇがにゃんだるふと暮らしていた、

‘あっちの世界’では、

こんな悲しいことはなかったかりぁ…」

−ジュル−

「…よいよい。もうもう、申すな♪

さぞや辛かったであろう…!」

−ズルッ−

−ぐすん−

「ざぞやにゃんだるふ殿は、

おヌシを慈しんで育てたのであろうな!」

−じゅるじゅる−

-ずび〜-

「にゃんだるふ殿は

ワシに申しておったとおり、

安らぎを探しに行かれたのじゃな…!」

−ちぃ〜ん−

「ほれっ!

面を上げるのじゃ!

見えてきたぞ!

我らが三千学坊が♪」

「あっ…!」

う〜わぁ〜〜〜っ♪

すっごいなあ!

屋根があんなに並んでる!

ギャロン渓谷みたいだ!

−じゅり−

「あれは家ばかりでないぞ!

我らが学び舎であり、

この世界の無二の‘学問所’なのじゃ!」

「うわぁ〜っ♪

すごい眺めだな〜っ!」

「ぬっ…!聞いておらんな!?」

あんなてっぺんまで、屋根が見えたぞ!

誰が住んでいるんだろう!?

「ここでは何を学べるんですか!?」

「古今東西のあらゆることじゃ!

しかしその前に、オヌシ!

目の前の人間からも、学ぶことが大事じゃぞ!

まあ、ともかく…三千学坊へ良く来たの♪

皆、歓迎するぞっ!」

「やったぁ〜♪着いたーっ!」

−タッタッタッ−


黒い箱が鳴り出した!


−ちりりりりりりり♪−

んっ?黒い箱が鳴ってるぞ?

んんん・・・?

「ありぇりぇっ!?

さっきの‘風土の音色’が聴こえてくるぞ!?」

「ほうっ!おヌシ、

珍しいものを持っておるな!」

「こりぇのこと知ってるんですか!?

何ですか、こりぇ?」

「それは箱じゃ!」

「そ、それはそうですけど…

もう少し詳しく話してまらえませんか?

おりぇ、’こっち’に来たばかりで…!」

「そうじゃのぅ…!

オヌシはまだまだ、ニュ~カマ~♪

説明がたっくさん必要じゃのう、

にょるじっぺい、じっぺいよ!

それは波や揺らぎを捕まえられる箱…!

と聞いたらどうする、どうする?」

「こ、こりぇ…

そんなにすごい物だったんですかっ!?

そうと知らずに、

食べ物も突っ込んじゃった…!

…って、なんで2度も名前を…?」

「はっはっはっ!

気にするな、気にするな!

そして案ずるな!

その程度で壊れはせぬ、うむ♪」

−ほっ−

…良かった♪

…なんか、すごいものを拾っちゃったな!

「嬉しいなぁ~っ♪」

「その箱はの、

この大地の至る所に眠る

‘風土の音色' や ‘大地の記憶’

を記録するための箱なのじゃ!

うまく使えば、

己の人生すら変えられようぞ♪」

「へぇーっ!

そんなにすごいものなんですか!

早速使ってみよ~♪」

−ゴシゴシ−

−カパッ−

フンフフンフ~ン♪

「…どうやって使うんですか、これ?」

「はっはっはっ!なに、

『採ってくれ』というだけじゃ!」

「へえぇ!

…じゃ、じゃあ!取手くれっ♪」

−がんっ!−

−ごごん!−

−ジリッ−

…んっ?

今ので採れたのかな?

−ごそごそ−

「あっ!

木のざわめきが採れてるぞ!

これ、すっごいなぁ~!

巻物みたいだ!」

「…巻物…巻物とな?

なんの巻物じゃ?

エッチな巻物ではないのかの…?

いかんぞ、にょるじっぱい、じっぱい!

オヌシには、まだ早すぎる!」

「お、‘おりぇ(じっぺい)の巻物’っていうのは…!

…おりぇが

‘あっち’から‘こっち’にくる途中で、

落としちゃったもののことですよ!」

「ふむ…!

さぞや大切なことが、

たくさん記してあったのじゃろうな。

なんとなくオヌシはメモ魔のニオイがする…!

…どうじゃ?

代わりと言ってはなんじゃが、

ワシの巻物を見せてやろうかの♪」

「いいんですか!?

そりぇは助かります!

巻物があれば、

今まで調べたことも全部わかるし♪

…なんで、おりぇがメモ魔だって…!?」

「ふはは!

なんかそんな顔をしておる!

早速ついて来るが良いぞ♪

向上心旺盛な若者は、大歓迎じゃ!」

「はいっ!ついてきま〜すっ♪」

-とっとっとっ♪-

「よいか、にょるじっぱい、じっぱい♪

あまり見知らぬ人についていくのでは、ないぞ…?

大変なことになるかもしれない、からの!」

「は~い♪」

-とっとっとっ!-


霊山・修験者の山!!


−ヒュ〜ッ!−

「…ぁぁあああうぅ〜〜〜!!!!」

じっ!地面にぶつかるっ!

−ふぅわっ−

「うぉわっ!?」

−ひゅわん−

−すとん−

…ちゃ、着地できたぁ〜〜〜っ!!!!

「ふぁぁぁぁっ!

死ぬかと思ったっ!」

「はっはっはっ!

どうしたにょるじっぺい、じっぺい!

腰が抜けたかの!?」

「…ぬっ、抜けました…!」

−カタカタカタ−

なっ、何かに掴まらないと立てないぞ!

「こ、怖かったっ!」

-カタカタカタ-

「…そして…楽しかったぁ〜♪」

「はっはっはっ!

着いたぞ、にょるじっぺい!じっぺい!

ここは火の山よりほどない土地、

修験者(しゅげんじゃ)の山’じゃ♪」

…ありぇ?

なんでかまた、2度も呼ばれたぞ?

「…シュゲンジャ!ってなんですか?」

「修験者とは山野を歩き、

己が霊力を高めた者達のことじゃ!」

「れ、霊力!?

霊力って本当にあるんですか!?

…魔法みたいにっ!?」

「先ほどまで飛んでおったではないか!

あれは霊力じゃ!」

「おりぇはてっきり、

なにかの動力があるのかと…」

「おもしろいことを言うのう!」

「いやぁ、そんな冗談は…♪」

−ポリポリ−

「でも確かに飛んでた感覚が、

まだ体に残ってます!

体がふわんふぁんしてますもん♪」

-ほよほよほよ-

「ここは我が故郷♪

火の山に至る道は、

ここより続いておる!

しばし休んでいくがよいぞ。

皆で饗うぞ♪」

「やったぁ!

ご飯が食べりぇるぞっ!」

−ぐぅぅぅうぅ!−

「はっはっはっ!

早速何か馳走しよう♪」

「ひゃほ〜っ!」

−とっとっとっ!−


風土の音色


−ふひゅぅっ!−

すっ、すごいぞっ!

おりぇ、今っ、空を飛んでるっ!?

なんてこった〜っ!

あんな高い山まで

まる見えじゃまいかっ!

「どうじゃ、にょるじっぺい!

…気分も良かろうっ!?」

「いや、こりゃもう!

気分が良いなんてもんじゃなくて!

夢みたいだなぁ〜っ!!」

うわぁ〜!

綺麗に尻尾がなびいているなぁ〜!

−すふぁふぁっ−

「あれが富士じゃ!」

「あれが噂の…マウント富士!

…フジヤマ!ゲイシャ…!」

「芸者がどうしたのじゃ!?」

「あっ、いや!

巻物でしか見たことがなかったから、

つい興奮して!」

「なにっ!?芸者にかの?

やるの~!若い身空で!」

「ちちち、違います!

富士山に…!!」

「はっはっはっ!

そうじゃの!富士は良いの!

一日たりとも

ワシらに同じ顔は見せてくれぬ!

日々新たな顔で、

ワシらを楽しませてくれるのじゃ♪」

「『日々新たなり』か!

ホンモノはやっぱりすごいな!!

見ると聞くとじゃ大違いだっ!」

「そうじゃ!

『日にまた新たなり』じゃ!

人も山も、

一日とて同じではならぬ!」

阿蒙(あもう)ですかっ!?

…あっ!あれは何ですかっ!?」

「あれは‘日の本のへそ’じゃ!」

「あれがへそ!

綺麗な湖だな〜っ♪

水面が全く動いてないように見えるや♪」

「伝え聞くには、

ここが日の本の折り返し地点らしいの。

…ほれ、あちらは‘内海’じゃ!」

「あれが海!?

あんなに静かなのに!?

…綺麗だなぁ〜♪」

…あれっ!?

音が聞こえてくるぞっ!

…ありぇは…

風土の音色’だ!

「やっぱりこっちの世界も

歌っているんだ!」

「ほうっ!おヌシ、

‘風土の音色’が聴こえるのか♪

良きこと、良きこと!

にょるじっぺい、じっぺい!

人も木も草も、皆歌っておるぞ!」

「‘風土の音色’が鳴り響いている!」


綺麗な音だなぁ〜♪

…ところでなんで、

名前を2度繰り返していたんだろう?

-ヒュヒュヒュヒュ♪-



我が名はシンヨウ


「おヌシは何者であるか?」

うわわわわっ!?

尻尾がいっぱいある…!

何だこのキツネ!?

すっごい威圧感だ!

目が合わせられないや…!

「二度も問いかけるのはなんじゃが、

おヌシは何者じゃ?」

まずいなっ…!

体が動かないぞっ!

−ガチガチ−

「おっ…!おりぇの名前はにょるじっぺい!

そっ、そんでこれはカッコントウでぇす!」

「尋ねてはおらんが、それは薬筒であったか…

それで、にょるじっぺい、何処より参った?」

「…ぶっ、無礼な人だな!こっちが名乗ったら、

そっちも名乗るもんでしょうに…!」

「…これは失礼仕った♪

我が名はシンヨウ

鎮西(ちんぜい)より参り、

今は遊学の身である!」

−ぺこり−

「あっ、いえいえ、こちらこそ…♪」

−ペコリ♪−

なっ、なんだ♪

話せそうな人で良かった~♪

「実はかくかくしかじかで!」

「…ふむむ、火ギツネとな…!

なかなか珍しいものを探しておるな!!

火ギツネはこれより南西の方、

我が祖国である鎮西の中程、

火の山’の火口付近に住んでおるぞ!」

「えっ…‘火の山’にいたのっ!?

…2、3週間前に通ったのになぁ〜!

あ〜ぁ…!」

−ガク〜ン−

「そんなに落ち込むでない、若人♪

おヌシの脚なら、すぐにでも参れようぞ!

…とはいえ鎮西は遠き方じゃ。

ワシが送り届けてしんぜよう!」

「いやぁ〜!送り届けるなんて、

そこまでして頂かなくても…

…ぅわわわわわっ!!」

うっ、浮いたっ!?

「我が術をしかと見よ!」

−どどーんっ!!−

−ひゅるるっ!!−

「ぅうううううわ〜〜〜〜ぁ!!

あぁぁぁぁぁぁ…」

-キラーン-


‘セイタロウさんの森’にて


むむむむむっ!

火ギツネを探しに来たのは良いものの、

こっちの世界の森は、

何だか勝手が違うぞ…!

なんだか杉ばっかりで、

鼻がムズムズしてきた…!

…ひょ…ひょ…ひょえ〜ぃ!


びえぇっくしょ〜いぃっ!!!!


−ズルズル−

う〜ん、火ギツネ探す前に

おりぇもマスクが欲しいなぁ…

こっちの人たちが、

なんでマスクをしていたのか、

ようやくわかったぞ…!

ありぇはオシャレじゃなかったんだっ…!

−じゅる−

…とと、この一角はすごく明るいな!

おっ!

コナラやクヌギも生えてるぞっ!!

−がさがさ!−

この森はあっちの世界の森と

よく似ているな!

光が射して、

生態系(せいたいけい)も

しっかり残っているし!

−がささっ−

ありゃ!?

こりゃ‘巣植え’だぞ!?

この森は

‘ニンゲン’の手が入っているのか!

…ってことは、

やっぱりこの辺にも火ギツネが!

…んっ!?

…なんだろうな…

妙な気が漂ってきたぞ!?


−ゾクッ−


まずいぞ!

明るい森だと思って油断してた…!

何かのテリトリーに入っちゃった!!

こりゃホントにまずいぞ…!!


−すぅううわ…−


あつ!?

なんだあの尻尾!?

九本もある!!


ゆいま〜る


−カチャカチャカチャカチャカチャ−

…やっぱりそうだ!

このマークは、

‘大津波の時代’の‘三賢者の紋様’だ!!

これがゆいま〜ると同じものだとしたら…

‘あっち’の世界と‘こっち’の世界を、

橋渡しすることができるぞ!

そしたら、

また‘あっち’の世界に戻ることもできるぞっ!

よしっ!

−シュタタッ!−

さっそく‘火ギツネ’を捕まえにいこう!

この時代なら、

まだ生きているはずだ!

巻物がなくても何とかなるぞっ!

早く森を救わなきゃ

−タッタッタッタッ!−



箱の正体、見切ったり!


この前拾った箱!

ありぇが何だかわかったぞ!

ありぇは、

世界を洗い流した

‘大津波の時代’

の物だったんだ!

びっくりしたなぁ!

まさかそんなところに来ちゃっていたなんて!

大河を渡るときに、

渡るところを間違えちゃったんだな、

きっと…

…でもなんで時代まで違うんだろう???


…まぁいいや!

どうせ今のおりぇは、一人だし…!

それで困るわけでもないしなぁ…

…折角だから、

こっちの世界を楽しんじゃおう♪

−スック−


まずは大津波を避けるために、

しっかりと準備をしなきゃ!

そういえば、あの拾った箱には、

どこかで見たことのある

‘マーク’が浮かびあがっていたなぁ…

…あれ、

昔どっかで見たことがあるんだけどなぁ…?

にゃんだるふ’に教わったんだけど、

ありぇは一体…!?

むうううぅ〜!

んんん〜っ!

…思い出せない!!


拾ったら、光ってた!


通りがかったパンやのおじさんが、

パンをくれました!

−グスッ!−


空きっ腹には、

有り難さが染み渡るなぁ…


すっごく優しいおじさんだった♪

-ムグムグムグ-

…ごはんにありつけてよかった~!


どうやらこっちの世界では、

お金ってもんがいるみたんだなぁ…


あっちで言う

’みたいなもんなのかなぁ?

だとしても、

どうやって集めるんだろう???

-カチャ-

…う〜む…

それにしてもなんだろうこれ?

どうも見かけのわりに、

中身がスカスカしているぞ?

−がちゃがちゃ−

なんだろうな、これ…?

−ポチッ−

…うわわわわっ!光った!

なっ、なんだこりゃ!?

文字がいっぱい出てきたぞ!?


「…あ〜る…おぉ…おぉ…てぃ…」

root?…根っこ?…根っこっ!?

何の根っこのことだろう?

…んっ?

うぉ〜・ぶ・ん・ちゅ?

うぉ〜ぶんちゅ?

なんだこりぇは…?

いっぱいボタンはあるし、光るし、

いったい何に使うんだろう、これ?

…う〜ん、

こんな時こそ巻物が必要なんだけどなぁ…

弱ったなぁ…

−しょぼん−


よわったなぁ…


さっそくご飯を食べようと思って、

町に出たのはいいんだけど、

困ったことに、

みんなから追っかけられたんだ…!

みんな血相変えて

「お金払ってよっ!」

って怒るんだ…

…どういうことだろう?


どうなってるんだ、

‘こっちの世界’は?

お腹が空いていたらパンを与え、

小腹が空いたらおにぎりを食べるのが、

‘あっちの世界’では当たり前なのに、

まるっきり違うみたいだ…


…もう少し、

こっちの世界を調べる必要が、

あるみたいだな!

よしっ!

−ぽんっ−

…ありぇ!?

おりぇの巻物がない!

どっ、どうしよう!?

こんなときに巻物が無いなんて…!

…ぅあぁ、弱ったなぁ…!

お腹も減ったし…

…ムムム…

−グゥ〜−


お〜りぇの名前はにょるじっぺ〜い♪


おりぇ?

おりぇの名前はにょるじっぺい

こりぇ!?

こりぇはカッコントウ


そしておりぇたちはにょけ


始めまして!

おりぇの名前は‘にょるじっぺい’!

‘こっちの世界’には来たばっかりで、

まだ慣れないことが多いけど、

どうかよろしくお願いします!

−ペコリ−

‘こっちの世界’は、

‘おりぇたちが住む世界’とは、

ずいぶん違うので、

とてもびっくりです!

不思議なことがいっぱいで、

驚きの連続だけど、

幸いお日さまもお月さまも一個づつで、

ホッとしています!

まずは‘こっちの世界’のことを、

いろいろ探索しに行こうと思うので、

何か見つける度に、

ここに戻ってくるね!


じゃあ行ってきま〜す!